shihyou / 指標

3つの指標

HASSEI METERが計測する、抜け・芯・クリアの3つの音響指標について解説します。

3つそろって初めて認定になる

HASSEI METERの判定は、抜け・芯・クリアの3つすべてが基準に届いているかどうかで決まります。1つでも基準に届かなければ、認定にはなりません。

HASSEI METERの実機検証では、抜け(SPR)だけを見ると、力任せに張り上げた声のほうが高い数値を出すことがありました。芯とクリアは、この「数値だけ高い声」を認定から弾く役割を担っています。

SPR

えすぴーあーる

SPR(Singing Power Ratio)とは、声の高い方の成分と低い方の成分の落差を測った数字です。HASSEI METER では、3指標のうち「抜け」の指標として使われています。

何を表す指標か

SPRは、声の響きの印象と結びつくことが報告されています(Omori ほか, 1996)。

SPRを提案した研究(Omori ほか, 1996)が使ったのは、歌った声を録音し、その成分をあとからコンピューターで加工した音です。この音を人に聞いてもらったところ、SPRの数字と「響きのよさ」の評価とのあいだに、結びつきが見られました。オペラの歌声を調べた研究(Kondo ほか, 2025)では、SPRの数字が高い人ほど、審査員からの評価が高くなる傾向がありました。

ただし Kondo ほか(2025)の研究は、日本人の女性歌手10名が同じ1曲を伴奏なしで歌い、審査員4名が評価した結果です。歌い方やジャンルが違えば、同じ傾向になるとは限りません。

また、SPRの数字が、歌声の良し悪しそのものを表すとは限りません。声楽を学ぶ女性6名が、2曲をそれぞれ2通りの歌い方で歌った研究があります。声楽の指導で教えられている技術を十分に使った歌い方と、控えめにした歌い方です。この録音24本を声楽の指導者15名が評価したところ、評価とSPRのあいだに結びつきは見られませんでした(Kenny, Mitchell, 2006)。評価がいちばん低かった歌声は控えめにした歌い方のほうで、高い方の成分の強さでは24本中2位でした。著者は、高い方の成分を強める声の出し方が1つではないからだろうと述べています。

算出方法

抜けは、声に含まれる音を低い方と高い方に分けたとき、高い方が低い方よりどれだけ弱くなっているか、その落差を測った数字です(Omori ほか, 1996)。

人の声は、耳には一つの音として聞こえますが、実際にはいろいろな高さの音(倍音)が同時に重なってできています。この重なりを低い方のグループ(0〜2kHz)と高い方のグループ(2〜4kHz)に分け、それぞれの中でいちばん強い音を探します。倍音は高い方ほど弱くなる傾向があるため、高い方のグループは低い方のグループより弱いのが通常です。

この落差が小さい声ほど、高い音の成分がしっかり残っているということになります。

模式図 低い方のグループ 高い方のグループ SPRが測る落差 低い音 音の高さ(周波数) 高い音

HASSEI METERの画面には、この落差を「(高い方の強さ)−(低い方の強さ)」で計算した数字がそのまま表示されます。高い方が低い方より弱い分、引き算の結果はマイナスになるため、SPRの数字はたいていマイナスです。落差が35ならSPRは−35、落差が12ならSPRは−12になります。マイナスが付くと大小は逆になり、−35より−12の方が大きい(0に近い)数字です。そのため、SPRの数字が大きいほど落差が小さく、高い音の成分が残っていることになります。

抜けは低い方の帯域の強さそのものは表さない

抜けが表すのは2つのグループの落差であって、それぞれのグループがどれだけ強いかではありません。

落差だけを見ているため、低い方のグループが強くなれば、高い方が変わらなくても数字は下がります。逆に、両方が同じだけ強くなれば数字は変わりません。また、声のどのあたりの高さが強められているか(フォルマントの位置)も、この数字からは分かりません。

そのため、抜けの数字が同じ2つの声でも、聞いたときの印象が違うことがあります。

HASSEI METERでの扱い

HASSEI METER では、SPRの数字が大きい(落差が小さい)ほど「抜け」が良いとして扱います。

「抜け(SPR)」は、芯(PEAK)クリア(CPPS)と並ぶ3指標のひとつです。3つがそろって基準に届いているかどうかで、HASSEI METER の判定(認定・惜しい・未達)が決まります。

倍音

一つの音に聞こえる声の中に、実際には重なっている、高さの違う音のことです。もとになる音(基音)と、その整数倍の高さの音が並びます。

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PEAK

声の高い方の成分にできる山の鋭さを表す、HASSEI METER独自の指標です。「芯」として扱います。

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CPPS

息漏れの少なさと結びつく、声の規則正しさを表す数字です。HASSEI METER では「クリア」として扱います。

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この指標の変化を見る練習: ストロー発声ロングトーンエッジボイス

references / 出典

  1. Kenny, D. T., & Mitchell, H. F. (2006). Acoustic and perceptual appraisal of vocal gestures in the female classical voice. Journal of Voice, 20(1), 55-70.
  2. Kondo, H., Kondoh, S., & Fujii, S. (2025). Perceived vibrato and the singing power ratio explain overall evaluations in opera singing. Frontiers in Psychology, 16:1568982.
  3. Omori, K., Kacker, A., Carroll, L. M., Riley, W. D., & Blaugrund, S. M. (1996). Singing power ratio: Quantitative evaluation of singing voice quality. Journal of Voice, 10(3), 228-235.

PEAK

ぴーく

PEAKとは、抜けと同じく声の高い方の成分を見て、そこに現れる山(周りより音が強く出ている部分)の鋭さを測った数字です。HASSEI METER が独自に定めた計算で、文献で提案されている指標ではありません。HASSEI METER では、3指標のうち「芯」の指標として使われています。

なぜ山の「鋭さ」を測るのか

芯は、声が大きいだけなのか、声道(のどから口までの空間)が山の帯域を強めているのかを見分けるための数字です。

HASSEI METER は、2.5〜3.5kHz の範囲を「ターゲット帯」、その下の 1.5〜2.4kHz と上の 3.6〜4.5kHz を「両肩」と決めて測ります。ターゲット帯のいちばん強いところが、両肩からどれだけ突き出ているかが芯です。範囲は声によって変わらないため、山がターゲット帯の外にあると、その山は芯の数字を押し上げません。

模式図 左肩 ターゲット帯 右肩 この差が芯 低い音 音の高さ(周波数) 高い音

HASSEI METER の設計では、声を大きくしただけのときは、ターゲット帯も両肩も広くのっぺりと持ち上がるため、差はかえって小さくなると考えます。声道がターゲット帯を強めたときは、ターゲット帯だけが持ち上がるため、差が広がると考えます。

HASSEI METERでの扱い

HASSEI METER では、芯の数字が大きい(ターゲット帯と両肩の差が大きい)ほど「芯」があるとして扱います。

「芯(PEAK)」は、抜け(SPR)クリア(CPPS)と並ぶ3指標のひとつです。3つがそろって基準に届いているかどうかで、HASSEI METER の判定(認定・惜しい・未達)が決まります。

SPR

低い方の帯域と高い方の帯域の落差を表す数字です。HASSEI METER では「抜け」として扱います。

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CPPS

息漏れの少なさと結びつく、声の規則正しさを表す数字です。HASSEI METER では「クリア」として扱います。

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この指標の変化を見る練習: ストロー発声エッジボイス

references / 出典

この記事の出典は執筆時に記載します。

CPPS

しーぴーぴーえす

CPPSとは、抜けと芯が声の高い方の成分を見るのに対し、声に含まれる倍音が、息などの雑音に埋もれずにどれだけはっきり出ているかを測った数字です(Hillenbrand, Houde, 1996)。HASSEI METER では、3指標のうち「クリア」の指標として使われています。

何を表す指標か

CPPSは、耳で聞いたときの息漏れ(声に息が混ざって聞こえること)の強さと、強く結びつくことが報告されています(Hillenbrand, Houde, 1996)。

CPPS のもとになった計算(CPP)は、Hillenbrand ほか(1994)が作ったものです。Hillenbrand, Houde(1996)はそれに手を加えてCPPSを作っており、調べたのは、声の病気がある20名とない5名の声です。伸ばした母音と短い文を20名が聞いて息漏れの強さを評価したところ、どちらでも、CPPSの数字と評価とのあいだに強い結びつきが見られました。倍音がはっきり出ているほど数字は高くなり、息が多く混ざって倍音が雑音に埋もれるほど数字は低くなります。

ただし、声の病気がある20名は、聞いたときにおもに息漏れが目立つ声の人が選ばれており、その息漏れは軽いものから重いものまでさまざまです。ガサつきやしゃがれなど、息漏れ以外の特徴が目立つ声でも評価と結びつくのかは分かっていない、と著者は書いています。声の病気がない人どうしの、もっと小さな息漏れの違いまで見分けられるのかも、分かっていないとしています。

ピッチ検出に左右されにくい

CPPSは、分析ソフトが声の高さを読み違えた場合でも、耳で聞いた息漏れの評価と結びついたままでした(Hillenbrand, Houde, 1996)。

声の震え1回ごとのわずかな乱れを測る指標の中には、声の高さを正しく読み取れていることを前提にするものがあり、読み取りを1回大きく誤るだけで数字が大きく狂うことがあります。高さの読み取りは、息漏れの多い声ほど誤りやすくなります。たとえば、実際の半分の高さ(1オクターブ低い音)と読み違えるのは、よくある誤りです。CPPSを求めるときも、分析ソフトは声の高さを探しますが、震え1回ごとの乱れを測る指標とは違い、見つけた高さが正しいことを直接の前提にはしていません(Hillenbrand, Houde, 1996)。そのため、声の高さの読み違いに左右されにくいと、著者は見ています。

ここでいう「左右されにくい」は、分析ソフトによる声の高さの読み違いに対してのことです。声の高さを変えても数字が変わらない、という意味ではありません。

HASSEI METERでの扱い

HASSEI METER では、CPPSの数字が大きい(倍音がはっきり出ている)ほど「クリア」が良いとして扱います。

「クリア(CPPS)」は、抜け(SPR)芯(PEAK)と並ぶ3指標のひとつです。3つがそろって基準に届いているかどうかで、HASSEI METER の判定(認定・惜しい・未達)が決まります。

倍音

一つの音に聞こえる声の中に、実際には重なっている、高さの違う音のことです。もとになる音(基音)と、その整数倍の高さの音が並びます。

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声の高さ

声帯が1秒間に何回震えるかで決まる、ドレミのどの音にあたるかということです。

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SPR

低い方の帯域と高い方の帯域の落差を表す数字です。HASSEI METER では「抜け」として扱います。

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PEAK

声の高い方の成分にできる山の鋭さを表す、HASSEI METER独自の指標です。「芯」として扱います。

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この指標の変化を見る練習: リップロールロングトーン

references / 出典

  1. Hillenbrand, J., & Houde, R. A. (1996). Acoustic correlates of breathy vocal quality: Dysphonic voices and continuous speech. Journal of Speech and Hearing Research, 39(2), 311-321.
  2. Hillenbrand, J., Cleveland, R. A., & Erickson, R. L. (1994). Acoustic correlates of breathy vocal quality. Journal of Speech and Hearing Research, 37(4), 769-778.

この3つの出どころ

3つの指標は、出どころが違います。

抜け(SPR)は、Omoriらが提案した既存の指標です。クリア(CPPS)は、Hillenbrandらの方法にもとづく既存の指標です。芯(PEAK)だけは、HASSEI METERが独自に定めた計算で、文献にある指標ではありません。